曲げの基本

6.曲げによる問題点



1) 最小曲げ高さ

最小曲げ高さ


前述の「U曲げ」構造において曲げダイRにブランク端が掛かるとダイRによってブランク材が横方向に逃げ易くなり、曲がり難くなる。


曲げダイRは、板厚の3倍以上を理想とするとブランク端は曲げパンチから板厚の4倍の位置でダイRの始まりと一致する。


曲げ展開の伸びを(1/2T)とした場合、曲げ高さは(3.5T)となる。


従って、一般的なU曲げ構造において問題なく曲げることのできる曲げ高さは板厚の3.5倍以上となる。


何とか曲げ形状を保てる曲げ高さの目安は一般的に板厚(T)とされるがダイRを小さめにするなど金型には何らかの工夫が必要である。



2) 高さの低い曲げによる変形

高さの低い曲げによる変形






曲げ高さが(最小曲げ高さ)以下になると左図のように変形し易い。


この変形は、曲げ高さ方向の材料が少ないなめ、曲げ部の圧縮応力と引張応力によって内側は押出され、外側は引張られ発生する。



3) 曲げ根元の膨らみ

曲げ根元の膨らみ





曲げ加工により曲げ幅方向に曲げ部が若干膨らむ方向に変形する。


この変形は板厚の中立軸内側の圧縮応力が、曲げ幅方向に逃げることにより発生する。


曲げ根元の曲げ幅が膨らみ、曲げ幅寸法の精度が必要な場合は、何らかの対策が必要である。



4) 曲げに接近した穴の変形

曲げに接近した穴の変形



曲げ工程前に加工された穴などの近くを曲げる場合、曲げにより引張られ、穴の寸法に変化が発生する。


引張られが発生する曲げと穴端の距離及び引張られる量は板厚、穴の大きさ及び、金型構造によってその量は大きく異なる。


穴が引張られ変形することは結果として、曲げ高さ方向の寸法がプラスとなる。


穴寸法及び曲げ高さ寸法の精度が重要な場合は、曲げ加工の工程後に、穴抜き工程を行う。



5) 曲げによる底面のソリ

曲げによる底面のソリ






曲げ加工において、圧縮応力、引張応力の反発によりスプリングバックが発生し、結果として曲げ直角度に影響するが、素材の平面度も影響する。


曲げる方向と反対側にソリが発生する。
スプリングパットの押え力の調整によって、ある程度減少する。


一般的に、次工程で修正することが多いが、修正によって曲げ直角度が変化する可能性があるので、修正する場合は注意が必要である。



 6) 曲げのトラブル

曲げのトラブルは、スプリングバック、上記 4) 5)などに起因することが多く、対策方法は長年培われた「カン」により解決しているのが現状である。計算や金型精度では解決できず、「カン」が狂うことも有り、曲げの難しさである。


最近では、解析ソフトによりスプリングバック率を求め、金型設計にその補正値を使用する例もあるが、実際はトライ後の再補正が必要である。解析ソフトの利用にも、材質、板厚、曲げRなどの条件による数多くの経験に基ずくデータが必要である。何れにせよ、実際の経験を分析し数多くのデータを収集しておくことが不可欠であり、そのデータを常に利用することが最善である。