1) 最小曲げ高さ
前述の「U曲げ」構造において曲げダイRにブランク端が掛かるとダイRによってブランク材が横方向に逃げ易くなり、曲がり難くなる。
曲げダイRは、板厚の3倍以上を理想とするとブランク端は曲げパンチから板厚の4倍の位置でダイRの始まりと一致する。
曲げ展開の伸びを(1/2T)とした場合、曲げ高さは(3.5T)となる。
従って、一般的なU曲げ構造において問題なく曲げることのできる曲げ高さは板厚の3.5倍以上となる。
何とか曲げ形状を保てる曲げ高さの目安は一般的に板厚(T)とされるがダイRを小さめにするなど金型には何らかの工夫が必要である。
2) 高さの低い曲げによる変形
曲げ高さが(最小曲げ高さ)以下になると左図のように変形し易い。
この変形は、曲げ高さ方向の材料が少ないなめ、曲げ部の圧縮応力と引張応力によって内側は押出され、外側は引張られ発生する。
3) 曲げ根元の膨らみ
曲げ加工により曲げ幅方向に曲げ部が若干膨らむ方向に変形する。
この変形は板厚の中立軸内側の圧縮応力が、曲げ幅方向に逃げることにより発生する。
曲げ根元の曲げ幅が膨らみ、曲げ幅寸法の精度が必要な場合は、何らかの対策が必要である。
4) 曲げに接近した穴の変形
曲げ工程前に加工された穴などの近くを曲げる場合、曲げにより引張られ、穴の寸法に変化が発生する。
引張られが発生する曲げと穴端の距離及び引張られる量は板厚、穴の大きさ及び、金型構造によってその量は大きく異なる。
穴が引張られ変形することは結果として、曲げ高さ方向の寸法がプラスとなる。
穴寸法及び曲げ高さ寸法の精度が重要な場合は、曲げ加工の工程後に、穴抜き工程を行う。
5) 曲げによる底面のソリ
曲げ加工において、圧縮応力、引張応力の反発によりスプリングバックが発生し、結果として曲げ直角度に影響するが、素材の平面度も影響する。
曲げる方向と反対側にソリが発生する。
スプリングパットの押え力の調整によって、ある程度減少する。
一般的に、次工程で修正することが多いが、修正によって曲げ直角度が変化する可能性があるので、修正する場合は注意が必要である。
6) 曲げのトラブル
曲げのトラブルは、スプリングバック、上記 4) 5)などに起因することが多く、対策方法は長年培われた「カン」により解決しているのが現状である。計算や金型精度では解決できず、「カン」が狂うことも有り、曲げの難しさである。
最近では、解析ソフトによりスプリングバック率を求め、金型設計にその補正値を使用する例もあるが、実際はトライ後の再補正が必要である。解析ソフトの利用にも、材質、板厚、曲げRなどの条件による数多くの経験に基ずくデータが必要である。何れにせよ、実際の経験を分析し数多くのデータを収集しておくことが不可欠であり、そのデータを常に利用することが最善である。