抜きの基本

8.最後に



  打抜きについて

通常の抜き加工おいて最も重要なことは加工材の材質、板厚に適したクリアランスを設定する。そしてパンチとダイのクリアランスを一定にすること。また抜きゾリを防止するため材料押えなど、圧力不足とならないよう考慮するなど。金型構造では、抜き圧力により金型にタワミが発生しないよう、剛性を考慮し各部品を設計する。ここまで述べたことが全てではないが、プレス抜き加工の基本であると同時に、一般的知識として捉え、物理的理論を基にせん断変形過程の応力について勉強し、プレス加工技術の向上に努めて頂きたい。


  精密せん断

一般的なせん断加工法は基本的に破壊加工であって、その断面は平滑にならない。ギヤー(歯車)など、切断面を使用する機能部品では、破断面があると接触面が安定しないため平滑な切断面を必要とする。それを実現するのにせん断加工時のクラックを発生させずに塑性せん断する「精密せん断」加工がある。具体的には、最も広く普及している「ファインブランキング(略称 FB)」工法があるが、汎用プレス機では加工できなく、複動油圧装置を配置した専用機(FBプレス機)が必要で、せん断面が平滑に仕上がるかわりに高コストとなってしまう。また、「FB工法」を用いても抜きダレ、バリなどは無くならない。他には通常の切断面をわずかに削り取り平滑な面に仕上げる「シェービング」加工があるが、削りカスが油などで金型に付き取り除くことが難しく、そのために製品にキズが付く、厚板になると1回で削り取ることができず復数回の加工が必要となるなど、問題点もある。最近では、部品コストを下げるため、汎用プレス機で平滑な切断面を得る精密せん断が実際に行われているが、極小クリアランスのため、プレス機の精度が悪いとパンチ、ダイにカジリが発生するなどいくつかの問題点もあり、高精度なプレス機を必要とする場合が多い。これらは数μm程のクリアランスに仕上げられたミクロンオーダーの精密金型である。


  今後の課題 (精密せん断と板鍛造によるネットシェイプ化)

「FB工法」は、打抜き製品の切断面を平滑にせん断する技術として普及したが、最近では製品の板厚を部分的に厚くしたり薄くしたりする複合の成形を組み合わせた「板鍛造」とも呼ばれる複合成形が増えている。それらは「ネットシェイプ」と呼ばれ「板鍛造」と「精密せん断」の複合により切削や研削などの仕上げ加工なしで最終製品を直接得るような方法である。ギヤーなどを使用する機能部品関連では部品コスト削減のため、その技術が広く求められている。たとえば、「抜きダレ」のない製品、板厚以上の高さでピン出し加工を行う、など色々とあるが、今後は、精密せん断と増肉減肉させる板鍛造技術の融合による「ネットシェイプ工法」を開発していくべきであろう。そのためには「精密せん断」と「塑性加工」についての知識を習得し、金型業界で生き残るために、自社技術の開発に取り組んでいく必要がある。また、金型の加工精度も重要な要素であり、限りなく高精度な加工技術を目指さなければならない。



補足: ファインブランキング FB工法とは?

クリアランスは極めて小さく、板押えまたはダイに突起形状や溝を付けブランク材をダイと板押えによってしっかりと押え、さらにパンチとパットによって製品部を保持ながらせん断する。突起形状によって刃先外周の材料を強い力で押さえることにより静水圧を高め、せん断時のクラック発生を防ぐことで破断面のない平滑な切断面にする精密せん断加工方法です。


静水圧を高めることにより材料の延性が増大する性質を利用してせん断する方法です


静水圧とは?
静止した水中に作用する単位面積あたりの圧力を静水圧という。静水圧はある面に垂直に働き、任意の1点において静水圧の強さはすべての方向で等しい。このような応力を静水圧応力などと言います。